豊子さんは右大腿骨を骨折して、12月半ばから入院していた。
某病院でのリハビリを終え、1月半ばにが、転倒のリスクを考え、GH内での移動は、車椅子ベースになると考えていた……。
しかし戻ってきた当日。豊子さんの目は入院中の時とはまったく違い、きらきらと輝いていた。「意欲が低下しているのでは…」というこちらの懸念もなんのその。ゆっくり自分の席から立ち上がり、杖を片手に、窓へと向かう。毎日の日課であったリビングのブラインド閉めを嬉しそうな表情でやろうとしている。
さらに、その翌日には、自分が食べた食器を片付けようと、食器を持って立ち上がり、キッチンへと向かうではないか!!。
常識的にには、まだ歩けない体のはず。しかし車椅子は頭からなく、目的のためならば、杖すら置いていく……。
恐るべし、豊子さん。嬉しい誤算だが、歩けないはずの体は現実である。筋肉が戻り、「歩み」が復活する日は近いはずだが、それまでスタッフは万全の体勢で転倒の事故を防ぐために気を張って臨むしかない。豊子さんがんばれ。われわれもがんばろう。
その2 コラさん (仮名)
迫力に満ちていたコラさんがは昨年末あたりから急に沈没気味になった。今もコラさんは落ち込み具合の激しい日々を送っている。
寒さのせいで体の節々や帯状疱疹の跡が痛い。豊さん(仮名)や守さん(仮名)が、明るさに引かれてコラさんの部屋の扉を間違って開ける。他にも悩むところは多いのか、最近は「いがれでしまった〜」「どうしてこうなんだろう…」「こごの職員は薄情だね」などネガティブな言葉が出る日々が続く。ちょっと楽しい話で盛り上がって笑顔が見られたなと思っても、次に鈴が鳴って行って見ると、またどよ〜んと暗雲がコラさんの頭上に立ち込めている。
そんなコラさんを、スタッフは時に励まし、時に喧嘩し、時に声を上げて一緒に笑い、時に共に沈みこむ。コラさん沈没の日はもうしばらく続きそうだ。けれど コラさんのことだ、暖かくなったらきっと浮上すると思う。